Cygamesの海外進出の歴史は2012年にさかのぼる

Cygamesのスマートフォン向けゲームアプリ「Shadowverse(シャドウバース)」が順調に伸びている。7月時点で1000万ダウンロードを突破し、人気作の多いCygamesのゲーム中でも、1日当たりのアクティブユーザー数(DAU)がトップになった。さらなる成長を目指して注力しているのが海外展開だ。「シャドウバース」を始めとする自社コンテンツを海外に届けるため、Cygamesは2月に海外事業部を立ち上げた。

【海外で“意外な人気”があったキャラは?】

 Cygamesの海外進出の歴史は2012年にさかのぼる。スマホゲーム「神撃のバハムート」を北米向けにアレンジし、「Rage of Bahamut(レイジ・オブ・バハムート)」というタイトルでリリース。6月にはApp Storeのセールスランキングで1位を獲得した。追って韓国語版と中国語(簡体字繁体字版)もリリース。成果を上げた一方で、課題も見えてきた。

 「『神撃のバハムート』の時は、さまざまなパートナーと組んで海外展開をしていました。スタートでいい結果は出ましたが、パートナーが増えることでやりたいことが思うようにできない部分や、スピードが遅くなってしまう部分も出ていました。課題になったのはプロモーションです。その地域のことをきっちり知らなければ、最適なプロモーションができないのです」

 そう語るのは、海外事業部を統括する執行役員の金瑞香さんだ。日本のプロモーションの常識は、海外のプロモーションにおける正解にはならない――「神撃のバハムート」の経験からそれを知ったCygamesは、「シャドウバース」の海外展開では、さらに現地に適したプロモーションを自社で行っていくことを決めた。

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 新たに立ち上がった海外事業部チームでプロモーションを担当するメンバーは合計11人。米国、欧州、中国、台湾、韓国――と各地域にそれぞれ1~2人の担当者がいる。メンバーは担当地域の言語や文化に詳しく、事業部ではさまざまな言語が飛び交っている状態という。

●地域が変われば、効果的なプロモーションも変わる

 「モンスターストライク」や「パズル&ドラゴンズ」など、国内で人気のタイトルが、海外展開で伸び悩むケースがある。それは日本国内と海外では好まれるゲームが異なるからだ。

 米国では、「クラッシュ・オブ・クラン(Clash of Clans)」などのストラテジーゲームが流行っている。 また、“重厚なストーリー”が売りのタイトルよりも、カジュアルにプレイできるゲームがランキングの上位に上がってくる傾向がある。

 中華圏も近いようで流行は違う。中国では3Dでリッチに表現した横画面のゲームが流行っており、「歩きながらゲームをしたい」という需要に応えたオートプレイができる爽快なアクションRPGが注目されている。

 韓国でも同様に3Dのリッチゲームが人気だが、ランキングの推移が激しく、ある時期はRPGが席巻、ある時期はパズルがブームになるなど、ジャンルのはやりすたりが激しい。台湾は、英語圏・中華圏・日本といろいろな国のゲームが入り込んでおり、ダウンロードやセールスランキングが国際色豊かだという。

 さらに、プロモーションの展開方法や、ゲームの運営方法も各国で異なっている。日本で一般的になっている「事前登録」――ゲームリリース前にユーザー登録を募り、スタートダッシュを図るプロモーション手法――は、意外なことに日本と韓国だけに特有だという。しかも、日本と韓国の間にも大きな差がある。

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 「日本の事前登録は、特典としてゲーム内アイテムやキャラクターをプレゼントすることが多いですが、韓国はクーポン券や金券など、実生活で使えるものを用意します。すごいところだと、マンションと車を抽選でプレゼントするパブリッシャーもあります」(以下、金さん)

 その一方で、米国では事前登録は一般的ではなく、インフルエンサーを使ったプロモーションなどに効果がある。台湾はさまざまな地域の“常識”が混ざり合っているが、事前登録文化はまだ根付いていない。

 「地域が変われば、広告費の使い方やプロモーションの流れは大きく変わります。日本の多くのパブリッシャーは、日本の慣習をそのまま海外に持っていって、効果の薄い事前登録キャンペーンを行おうとしてしまう。効果的なプロモーションをするためには、現地の理解が欠かせません」

●シャドウバース、実際にどうだった?

 「シャドウバース」は積極的な多言語展開をしているゲームだ。16年6月には日本版と英語版を同時リリース。17年2月に韓国語版、5月に繁体字版、7月にはフランス語版やイタリア語版、ドイツ語版をリリースした。金さんは現状について「苦戦している市場はあるが、韓国と台湾ではスタートダッシュができました」と語る。リリース直後のセールスランキングでは韓国17位、台湾13位に食い込んだ。

 スタートダッシュが成功した要因について、金さんは「『神撃のバハムート』IP(知的財産)の土台があった」と語る。韓国版を展開している「神撃のバハムート」や、翻訳版をリリースしてはいないものの、現地で非常に人気がある「グランブルーファンタジー」のキャラクターが、「シャドウバース」には多数登場しているのだ。

 海外展開の際、ゲームシステムを地域に合わせてカルチャライズするケースがある。「神撃のバハムート」では、韓国版リリースにあたって韓国向けのキャラクターを作成した。だが、「シャドウバース」のスタートダッシュはゲームのカルチャライズによって成功したわけではない。

 「『シャドウバース』はカードバトルの戦略性を重視したゲームで、e-Sportsとしても展開しています。もし各国でシステムに差異を出すとゲーム体験が変わってしまい、国を超えた対戦ができなくなってしまう。ですから、ゲーム内ではなくゲーム外をカルチャライズしました」

 先ほど紹介した事前登録キャンペーンも、“ゲーム外カルチャライズ”の1つだ。「シャドウバース」韓国版のリリース時には、事前登録の特典として抽選で旅行券を配った。また宣伝チャンネルも、韓国ではNAVERが運営する掲示板サイト「NAVER Cafe」、台湾ではFacebookでの告知にそれぞれ力を入れた。

 「日本ではユーザーへの告知やコミュニケーションは、影響力の強いTwitterを中心にして行っています。ですが全世界的に見ると、Twitterがメインではない国の方が多い。一番ゲームユーザーが多いプラットフォームで情報発信をすることを心掛けました」